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大分地方裁判所 平成4年(行ウ)7号 判決 1997年10月28日

大阪市大字三芳二〇二五番地の一

原告

平成はとタクシー株式会社

右代表者代表取締役

山田陽一

右訴訟代理人弁護士

山本洋一郎

三井嘉雄

大分市中島西一丁目一番三二号

被告

大分税務署長 池田隆至

右指定代理人

小澤正義

森敏明

吉良輝昭

瀬名波廣

畑中豊彦

星野光賢

井寺洪太

池田和孝

鈴木吉夫

河口洋範

福浦大丈夫

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

一  被告が原告に対し、平成三年六月二六日付けでした原告の平成元年四月四日から平成二年三月三一日までの事業年度の法人税の別表記載の更正処分のうち、本税額七二万五四〇〇円を超える部分並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

第二事案の概要

本件は、被告が、いわゆるタクシー業を営む株式会社である原告が訴外第二はとタクシー株式会社(以下、「第二はとタクシー」という。)からいわゆるタクシー営業権(以下、「営業権」という。)を無償で譲り受けた受贈益を有すると認定するとともに、原告の訴外株式会社東商(以下「東商」という。)に対する営業権使用料としての支払を法人税法三七条六項の寄付金と認定して、その大部分を損金不算入とし、さらに、原告の東商に対する預託金を東商に対する貸付金であり、右金員の利息相当額を原告の雑収入として計上すべき益金であると認定し、これらの認定に基づき原告の法人税確定申告に対して行った本件更正処分、過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分は、原告の所得を過大に認定したもので、違法であるとして、原告が被告に対して右各処分の取消を求めたものである。

一  争いのない事実

1(一)  原告は、一般乗用旅客自動車運送事業及び同事業に附帯する一切の業務を営業の目的とする、いわゆるタクシー業を営む株式会社である。

(二)  第二はとタクシーは、一般乗用旅客自動車運送事業及び同事業に附帯する一切の業務を目的とする、いわゆるタクシー業を営む株式会社であり、有松懋(以下「有松」という。)により昭和四〇年一〇月八日に設立された。第二はとタクシーの商号は、設立当初きんぐタクシー株式会社であったが、昭和五八年七月一日から第二はとタクシー株式会社、平成元年一月一〇日から平成はとタクシー株式会社、同年二月八日から再び第二はとタクシー株式会社に順次変更され、現在に至っている(以下、右各商号に関係なく、「第二はとタクシー」という。)。

(三)  第二はとタクシーの全株式四九五〇株は、昭和五八年、第二はとタクシーの株主であった有松ほか五名の株主から河野秋則(以下「河野」という。)へ譲渡され、さらに、河野から東商へ譲渡された。その結果、東商は、第二はとタクシーの株式を一〇〇パーセント保有する株主となった。

(四)  東商は、大分県下のタクシー会社六社を構成会社とし別府市に拠点を置く「はとタクシーグループ」に属し、右グループのオーナーである梅野朋子(以下「梅野」という。)らが全株式を所有している会社であり、医薬品、食品、雑貨等の輸出入及び販売並びに不動産販売等を目的としている。

2  原告は、被告に対し、平成元年四月四日から平成二年三月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税確定申告書に、別表の「確定申告」欄のとおり記載して、平成二年五月三一日申告した。

3  被告は、前項の確定申告に対し、平成三年六月二六日付で、別表の「更正処分等」欄記載のとおり、更正処分、過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分(以下「本件課税処分」という。)を行った。

4  原告は、本件課税処分に不服であったので、平成三年八月二四日、異議申立てをしたところ、同年一一月二五日付で異議を棄却する旨の決定を受けたので、さらに、国税不服審判所長に対し、同年一二月二〇日に審査請求をしたところ、同所長は、平成四年六月二三日付で右審査請求を棄却する旨の裁決をし、その裁決書謄本は、そのころ原告に送達された。

5(一)  更正処分について

(1) 被告は、原告が第二はとタクシーとの間で締結した一般乗用旅客自動車運送事業の譲渡譲受契約に基づき、一般旅客自動車運送事業を譲り受け、平成元年七月四日付で道路運送法三六条に規定する運輸大臣の認可を受けているから、第二はとタクシーが所有していた営業権は、原告に譲渡されたと認定した上で、譲渡譲受契約書によれば、譲渡価格の中には営業権の価額は含まれておらず、営業権に対する対価を支払っていないことから、営業権を無償で譲り受けたことになるのであって、営業権相当額八四〇〇万円は法人税法二二条二項に規定する無償による資産の譲受けに該当し、当該事業年度の益金となると認定した。

(2) 被告は、原告が所有する営業権は、東商が所有していた事実はなく、原告が第二はとタクシーから譲り受けたものであるから、原告の東商に対する営業権の使用料合計一六七〇万九六六七円の支払は、虚偽の営業権賃貸借契約等により仮装計上されたもので、その実質は東商に対する贈与であり、法人税法三七条六項の寄付金に該当すると認定した上、損金算入限度超過額を所得金額に加算した。

(3) 被告は、原告が営業権を所有しており、東商に対して営業権賃貸社契約に基づく保証金を支払うべき理由はないとして、原告が東商に対し、平成元年七月三一日に支払った三二〇〇万円は、東商に対する寄付金であると認定した上、同金額に対して年利率一〇パーセントにより日割計算した利息相当額を原告の雑収入と認定し、所得金額に加算した。

(二)  賦課決定処分について

被告は、原告が第二はとタクシーから営業権を取得していながら、東商が営業権を所有するとして、虚偽の営業権賃貸契約書等を作成して営業権使用料の支払を仮装し、これを損金に算入して所得金額を過少に申告していたものであるから、国税通則法六八条一項に規定する課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を仮装し、仮装したところに基づき納税申告書を提出したものであるとして、過少申告加算税に代えて重加算税の賦課決定処分をした。

また、被告は、更正処分は適法になされており、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、更正前の基礎とされていなかったことについて、国税通則法六五条四項の正当な理由があるとは認められないとして、同条一項により過少申告加算税の賦課決定処分をした。

二  争点

1  第二はとタクシーから東商に対して営業権が譲渡されたか否か。

(原告の主張)

(一) 東商が第二はとタクシーから営業権を譲り受けた経緯は以下のとおりである。

(1) 東商は、昭和五八年四月初めころ、当時、第二はとタクシーの実質的支配者であった河野を通じて、第二はとタクシーから、その所有する株式、営業権、車両等の有機的営業用財産の譲受けの打診を受け、遅くとも、同年四月二一日には、その企業買収の方法として、第二はとタクシーからその有する営業権及び車両を譲り受け、これを同社へリースすること及び別に株主からその有する株式を譲り受けることを同時併行で行うとの方針を立てた。右方針は、当時の東証の株式の半分を所有し、息子(内田正紀)が東商の代表取締役に就任していた弁護士内田達夫との相談、指導に基づき決定された。内田親子にとって、当時、父達夫は老齢で東京と大分を行き来する身であり、息子の正紀も遠方の会社に勤務する身であるうえに、両名ともタクシー経営の経験もないため、東商が安定収入を確保できる営業権の買取、リース方式を合理的に選択した。

(2) そこで、東商は、同年四月二一日、右車両の譲受け及びリースを可能とするため、同社の登記上の目的変更(「動産の売買及び賃貸」の追加)を実行した(乙三、五)。次いで、東商は、同年四月三〇日から同年五月二日までの間、買収資金の調達をし(甲一八)、第二はとタクシーの代表取締役の印、不動産の権利証、株式譲渡承認請求書類(甲九ないし一四の各1ないし3)、小切手(甲一七の1ないし8)等の授受を実行するとともに、自動車売買契約書(甲五)、車両賃貸契約書(甲六)、営業権リース契約書(甲七)、株式代金領収書(甲八)、営業権代金受領書(甲一五、一六)が作成された。右購入資金は、すべて東商から第二はとタクシーに支払済みであり、いずれも東商が大分銀行から調達したものであって、東商が右借入金の返済も行っている。

(3) 以上のとおり、同年四月三〇日から同年五月二日までの間に、遅くとも同年五月二日ころ、東商が第二はとタクシーとの間で同社の有する営業権(及び車両)を譲り受けた上で、これを同社に賃貸する契約を締結した事実及び同じころ、東商が第二はとタクシーの株主との間で旧株主の有する同社の株式を譲り受ける契約を締結した事実は証拠上明白であるとともに、右契約締結後、第二はとタクシーが昭和五八年七月二日付で商号変更登録を了し、同年七月五日付でその代表取締役が河野から木村誠司に交代したのを機に、同年七月五日付で新代表取締役との間で営業権リース契約をより明確にする契約証書(甲三)を作成していること(甲三では、東商が第二はとタクシーから取得した営業権を保持していることが第一条に明記され、これを第二はとタクシーが使用して営業を行い、その使用料を東商に支払うことが第二条及び第五条等に明記されている。)、同じく車両についても、同年七月九日付で新代表取締役との間で、車両賃貸借契約書(甲四)を締結していること、その後、営業権は東商の資産として計上され、右使用料、賃料の授受が現実に反復継続して行われ(甲二五)、東商では収入売上として計上され、第二はとタクシーでは経費として計上されてきたこと(甲二一の3、二二の1ないし7他)、途中の税務調査でも、使用料、賃料の存在を否認する発言はなく、むしろその存在を是認した上で、額の多寡の指導がされていること(甲二四の6、三五)などの締結後の経緯からも裏付けられる。

(二)(1) 被告は、東商が一般旅客自動車運送事業の譲受について運輸大臣の認可を受けた事実は認められないから、東商が第二はとタクシーから営業権を取得することは有り得ず、したがって、営業権リース契約書等の契約書はすべて虚偽のものと認められる旨主張している。しかし、タクシー業界においてその営業権が有償取引の対象とされていることは争いがなく、しかも、その有償取引が道路運送法の事業の譲渡譲受の認可手続と別個に行われるもので、認可手続上(認可手続の形式上のみ)は、無償取引と記載するよう監督官庁から指導されていることは公知の事実であって、本件証拠上も明らかである。したがって、東商が道路運送法の認可を受けていない事実から、同社が営業権を譲り受けることはあり得ないと断定することは、明らかな誤りである。また、右主張は、行政取締法規違反となるか否かの議論と私法上有効となるか否かの議論とを混同するものである。道路運送法の各条項はいずれも行政取締役法規であって、その違反が直ちに私法上無効となるものではない。この点は、民法の一般理論として確立しているだけでなく、道路運送法の各条項についても判例上確立している。さらに、仮に、私法上無効であるとしても、課税上は、現実にその経済的成果が収受されていれば、その実質的担税力に応じて課税される。この点も、租税法に関する判例学説上確立しており、租税法規上も、申告に係る各種所得の金額の計算の基礎となった事実のうちに含まれていた無効な行為により生じた経済的成果が、その行為の無効であることに起因して失われた場合に限って更正の請求が認められ、経済的成果が失われない限り有効として課税される旨定められている(所得税法一五二条、同法施行令二七四条一号)。

(2) 被告は、営業の買収の態様には、営業譲渡として道路運送法三九条(昭和五八年当時のもの。同法については以下すべて同様。)の正規の認可手続を経る場合と会社の買収(株式の買収)という形を採る場合の二つの方法以外に有り得ないと決めつけているが、会社所有の個別財産(不動産、動産、営業権等の無形固定資産)のみを譲渡する方式(さらには、その構成要素である車両のみ、営業権のみを譲渡する方式)もあり、いわゆる併行方式の場合もあるのであって、どの方式を選択するかは、本来、取引当事者の私的自治、取引自由の原則に属することである。問題は、私的自由の原則に則って選択された契約形態は何かという事実認定にあるところ、タクシー業界ではその営業権が商取引の対象とされ、有償で譲渡される商慣習が確立しており、右有償取引が道路運送法の認可手続とは別個に行われるものであること、東商は、昭和五八年四月二一日付目的変更登記以前から、営業権及び車両を譲り受けてこれを原告にリースし、これと別個に株式を取得する方針が立てられていたこと、その方針(いわゆる併行方式)の採用は、当時の東商のオーナーの一人で法律の専門家である前記弁護士親子に相談し、指示を受けた結果であったこと、その後、自動車売買契約書、車両賃貸借契約書、営業権リース契約書、株式代金領収書、営業権代金領収書等が作成され、現実に使用料、賃料の授受が反復継続して行われており、第二はとタクシー及び東商とも決算書にその旨計上してきたこと、途中の税務調査において、被告から、使用料、賃料の存在を否認する発言もなく、むしろその存在を是認した上で、金額の多寡について指導がされていることなどからすれば、本件においては、右併行方式が選択されたというべきである。さらに、被告は、事業者が会社である場合、タクシー事業者の買収は、余程のことがない限り会社の買収(株式の買収)の方式をとるのが通常であると主張する。しかし、道路運送法には、同法三九条が事業者たる会社に適用がないとか、少なくとも事業者が会社である場合、営業譲渡として同法条の認可の対象となるのは特殊、異常、例外的であるといったことを窺わせる規定は存在しないから、被告の右主張は、明らかに同法の趣旨に反するものである上、同法に関する行政庁の実務の運用や業界の慣行、法人税法や法人税通達等(法人税法二条二四号、同法施行令一三条八号リ、法人税基本通達七-一-五、所得税基本通達二-一九)にも反する。仮に、会社の株式を買収したとしても、その買収者につき道路運送法六条の二第四号等に該当する事由があれば、その事業免許は取り消されうる(同法四三条三号等)のであるから、株式買収の方式が万全なものとはいえない。被告は、右主張の理由として、営業権を切り売りすれば、譲渡会社は運転手を解雇し莫大な退職金を払わなければならないマイナスを受け、譲渡会社は営業所を確保したり運転手を新たに雇用するロスを受けることを挙げるが、これは、営業権譲渡やM&Aの実務を看過したもので、理由にはならない。

(3) 道路運送法三九条等の諸規定にいう認可の対象は、「事業の譲渡」であって「営業権の譲渡」ではない。タクシー事業(又は営業)とタクシー営業権とは異なる観念である。したがって、東商が、タクシー事業(営業)の譲渡や譲受について認可を得ていないことから、東商が「営業権」の譲受を得ていないと帰結することは、論理的に誤っているし、同法三九条の文言上、運輸大臣の認可が「営業権」の譲渡及び譲受の私法上の効力発生要件であることに疑問の予知はない旨の被告の主張も理由がない。また、本件において、「一般旅客自動車運送事業を営む権利」を「営業権」とした被告の定義も不正確である。営業権は、一般的に営業権の権利者が自らその営業を実施することを要求するものではなく、営業権の権利者が自己以外の他人(又は法人)をして右営業をしうる権利の実行者とし、その営業による生活利益を排他的直接的に支配しうる地位をもって営業権ということも全く問題はないからである。なお、被告は、営業譲渡につき認可も得ていないし、得ようとしないというのでは、刑事的処罰を受ける(道路運送法一二八条一号)という重大な危険を犯すことになる旨主張するが、同法は、タクシー事業(営業)の無認可譲渡を刑罰の対象としているのであり、タクシー営業権の譲渡自体を処罰の対象としているのではないことは、罪刑法定主義を援用するまでもなく、当然のことであるから、右主張も理由がない。したがって、本件処分は、その前提とする「営業権」の観念を誤ったものであり、違法である。

(三) 以上のように、本件における営業権の譲渡は一個の経済的取引としてその実態を有するものであるから、営業権は、東商が有しており、これを原告が第二はとタクシーから無償で譲り受けた事実はない。また、原告は、営業権の所有者である東商との間で締結した営業権リース契約に基づいて営業権リース料を支払ったものであって、寄付金には該当しない。さらに、原告が東商に対して預託している三二〇〇万円は、原告の債務不履行の場合の損害賠償債務等を保証するための補償金として、営業権リース契約に基づいて預託したもので、寄付金ではないから、その利息相当額を雑収入として計上すべきではない。したがって、本件更正処分は不当であり、その全部が取り消されるべきであるので、本件過少申告加算税及び重加算税賦課決定処分も、全部取り消されるべきである。

仮に本件更正処分に違法はないとしても、少なくとも、原告は、営業権賃貸借契約書(乙五六)を虚偽のものとの認識のもとに作成して営業権使用料の支払を仮装する意図を有していなかっただけでなく、第二はとタクシーの過去の税務調査で同社の東商に対する使用料の支払自体は是認されていたのであるから、本件賦課決定処分のうち、少なくとも重加算税については、これを取り消すべきである。

(被告の主張)

(一) 営業権譲渡の経緯

(1) 原告及び第二はとタクシーは、平成元年三月一四日付で、譲受人を第二はとタクシー、譲受人を原告として、次の事項を内容とする譲渡譲受契約書(乙五五の2)を取り交わした。

<1> 第二はとタクシーは、大分市を事業区域とする一般乗用旅客自動車運送事業の権利、義務、事業用自動車、什器備品及び機械器具一式を原告に譲渡する。

<2> 右譲渡及び譲受の価格は一〇〇〇万円とする。

<3> 本契約の効力は当該事業の譲受及び譲受が主務官庁の認可を受けたときに発生するものとし、認可を受けることができない場合は締結の目に遡って効力を失う。

(2) 第二はとタクシー及び原告は、同年四月二〇日、それぞれを譲受人、譲受人とする一般乗用旅客自動車運送事業の譲渡譲受認可申請書(乙五五の1)を九州運輸局長に提出し、同局長は、同年七月四日付で、認可車両台数二八台で右申請を認可した。

(3) 原告及び第二はとタクシーは、平成元年七月二〇日付で、一般乗用旅客自動車運送事業の譲渡譲受終了届を九州運輸局長に提出した。

(二) (一)(1)<1>の譲渡契約の目的のうち、大分市を事業区域とする一般乗用旅客自動車運送事業の権利とは、まさに営業権のことであり、同契約及び九州運輸局長の認可によって、営業権が第二はとタクシーから原告に譲渡されたことは明白であるが、同契約書の譲渡及び譲受価格の明細書には営業権の価格の記載はなく、譲渡及び譲受価格一〇〇〇万円に営業権の価格は含まれていないから、営業権は第二はとタクシーから原告に無償で譲渡されたものである。しかし、タクシー業界においては、営業権が商取引の対象とされ、有償で譲渡される商慣習が確立しているところ、本件における営業権の価格は、認可車両一台当たり三〇〇万円に営業認可車両数二八台を乗じた八四〇〇万円(但し、後記3において、これを一億四〇〇〇万円と主張を改める。)を下回ることはない。

(三) これに対し、原告は、東商が第二はとタクシーから営業権を譲り受けて所有していると主張する。この点につき、道路運送法四条一項は、「一般自動車運送事業を経営しようとする者は、運輸大臣の免許を受けなければならない。」、同法三九条一項は、「一般自動車運送事業の譲渡及び譲受は、運輸大臣の認可を受けなければ、その効力を生じない。」と規定し、さらに同条三項は同法六条を準用し、右認可に当たって、運輸大臣は同条一項各号に掲げる基準に適合するかどうか審査しなければならないとしている。しかし、東商は右運輸大臣の認可を受けていないから、東商が営業権すなわち一般自動車運送事業を営む権利を第二はとタクシーから取得することは有り得ず、したがって、東商が営業権を取得したことを内容とする営業権リース契約書等の契約書はすべて虚偽のものと認められる。実際にも、営業権の譲受があったとすれば、譲渡代金は当然に第二はとタクシーに帰属するはずであるが、営業権を一億三九五〇万〇一〇〇円で譲渡したとする第二はとタクシーの決算書には、右譲渡代金の計上がなく、その申告もされていない。右一億三九五〇万〇一〇〇円は東証が旧株主である有松らに支払った金員であり、結局、東商は、第二はとタクシーの全株式だけを河野を介して有松らから取得したに過ぎないものである。第二はとタクシーは、東商が、昭和五八年四月三〇日、第二はとタクシーの株式を四九五万円で取得し、同年五月二日、第二はとタクシーからタクシー営業権及び車両を一億三四五五万〇一〇〇円で取得した旨主張するが、時価一億数千万円の価値のある株式をわずか四九五万円の額面金額で取得したとする点、右株式の取得により東商の一〇〇パーセント子会社となった第二はとタクシーから、さらに、営業権等の資産を購入したとする点で極めて不自然であり、到底信用できない。また、第二はとタクシーと東商の間で同年四月一日に締結したとされる売買契約書(甲五)及び車両賃貸借契約書(甲六)については、右同日現在の原告の代表取締役は有松であるにもかかわらず、「きんぐタクシー株式会社代表取締役河野秋則」の記名押印がされているところ、河野が原告の代表取締役に名目上ではあるが就任したのは同年五月二日であり、かつ、河野自身も契約締結の事実を否定していること、営業権を東商に譲渡したと主張する第二はとタクシーの決算書に右譲渡代金の計上がなく、申告もなされていないこと、第二はとタクシーが被告所属の調査担当係官に提出した自動車売買契約書に添付された自動車内訳明細書には、第二はとタクシーが右契約を締結したと主張する同年五月二日の時点では存在しない同年七月二〇日ないし同年九月二八日に登録された自動車三台が記載され、第二はとタクシーが提出した同年七月九日付の「車両賃貸借契約書の添付書類自動車内訳明細書」にも同様の誤りがあり、いずれの書類も調査官の調査に対応して同年九月二八日以降に日付をさかのぼらせて作成されたものと考えられること、右自動車売買契約の目的とされた営業用車両については、東商への所有者等登録事項の変更がされていないこと、右車両賃貸借契約書六条で、「賃貸物件の使用中の修繕又は造作、改造をなす場合は、賃貸人の承諾を得ること」と規定されているが、賃貸人である東商は、車両の修繕等に関する記録を有していないことの各事実から、第二はとタクシーから東商への営業権の譲渡、営業用自動車の譲渡がすべて仮装であり、右譲渡を前提とする、原告から東商への営業権使用料の支払及び営業権賃貸借契約に基づく原告から東商への保証金の支払も仮装したものであることは明白である。原告が主張する第二はとタクシーから東商への営業権の譲渡等が仮装であることは、これと両立し得ない第二はとタクシーから原告への営業権等の譲渡が実際に行われていることからも裏付けられる。

(四)(1) 原告は、東商は一般旅客自動車運送事業の譲受けについて運輸大臣の認可を受けた事実は認められないから、東商が営業権を原告から取得することはあり得ない旨の被告の主張に対し、行政取締法規違反となるか否かの議論と私法上有効となるか否かの議論とを混同するものであると論難する。しかし、道路運送法三九条一項は、「一般自動車運送事業の譲渡及び譲受は、運輸大臣の認可を受けなければ、その効力を生じない。」と規定しているのであり、その文言上、運輸大臣の認可が営業権の譲渡及び譲受の私法上の効力発生要件であることに疑問の余地はなく、運輸大臣の認可を受けていない東商が本件営業権を取得することはあり得ない。また、原告は、仮に、営業権の譲渡が私法上無効であっても、現実にその経済的成果が収受されていれば、課税上は、その実質的担税力に応じて課税される旨主張するが、右主張は、第二はとタクシーから東商への営業権等の譲渡が実際に行われたものの、それが無効であった場合に初めて当てはまることであり、本件のように、そもそも譲渡行為が仮装であって存在しない場合には、経済的成果が生ずることは有り得ないから、右主張は失当である。

(2) 原告は、「営業権の譲渡」と道路運送法三九条一項に規定する「事業の譲渡」とは異なる旨主張するが、なぜ営業権の譲渡が「事業の譲渡」に含まれないのかについて、およそ理由らしい理由を説明していない。自ら事実として営業しなければ「事業の譲渡」には当たらないとし、第二はとタクシーと東商との間の「営業権の譲渡」なるものが「営業権権利者が、自己以外の他人(又は法人)をして右営業をしうる権利の実行者として、その営業による生活利益を排他的直接的に支配しうる地位の譲渡」であるとする趣旨とも考えられるが、同条項にいう「事業の譲渡」とは、例えば旅客自動車運送事業であれば、他人の需要に応じ、自動車を使用して旅客を運送するため組織化され、有機的一体として機能する財産を譲渡することを意味するものと解されるところ、原告の主張によっても、東商は第二はとタクシーが保有していたタクシー営業権及び営業用自動車のすべてに対する権利を一億三四五五万〇一〇〇円で譲り受ける契約をしたことになるのであるから、そのとおりであれば、右「事業の譲渡」に該当することは明白であり、「タクシー営業権」の譲渡だけを取り上げて、これが「事業の譲渡」に該当するか否かを論ずること自体意味がない。さらに、道路運送法は、名義の利用、事業の貸渡しの禁止(同法三六条)、事業の管理の受委託の許可制(同法三八条)を規定し、その違反に対しては罰則をもって臨んでいる(前者について同法一二八条二号、後者について同法一二八条の三第一号)のであるから、第二はとタクシーが締結したとする「営業権の譲渡」契約が前記のような形態のものであれば、重ねて道路運送法に違反することは明らかであり、タクシー事業を営んでいる第二はとタクシー及びこれに精通している東商が、このような法律に違反する契約を締結したとするのは著しく不自然である。また、原告自身、第二はとタクシーから事業を譲り受ける際に九州運輸局長に提出した一般乗用旅客自動車運送事業の譲渡譲受契約書において、「一般乗用旅客自動車運送事業の権利」、すなわち営業権を譲渡の対象としている上、原告への事業の譲渡に関する第二はとタクシーの臨時株主総会においても、「当社が有している一般乗用旅客自動車運送事業の営業権及びこれに関する資産、負債を平成はとタクシー株式会社(設立発起人代表梅野眞語)に譲渡する。」という議案を満場一致で原案どおり可決しているのであり、第二はとタクシーが原告に営業権を譲渡したこと、すなわち右営業権譲渡以前には東商ではなく第二はとタクシーが営業権を享有していたことは明白である。

(五) 以上のとおり、第二はとタクシーが所有していた営業権は、原告が無償で譲り受けたことになるから、当該事業年度の益金となると認定して行った本件更正処分は適法である。また、原告の東商に対する一六七〇万九六六七円の営業権使用料の支払は、虚偽の営業権賃貸借契約等により仮装計上されたもので、その実質は東商に対する贈与であり寄付金に該当するから、損金算入限度超過額を所得金額に加算した本件更正処分は適法である。さらに、原告が、東商に対して営業権賃貸借契約に基づく保証金を支払うべき理由はないのであるから、原告が平成元年七月三一日に東商に支払った三二〇〇万円は、東商に対する貸付金と認められ、同金額に対する利息相当額(利率については、後記争点2のとおり、争いがある)は、雑収入とすべきであるから、これを所得金額に加算した本件更正処分は適法である。そして、原告は、第二はとタクシーから営業権を取得していながら、東商がこれを所有するとして、虚偽の営業権賃貸借契約書等を作成して、営業権使用料の支払を仮装し、これを損金に算入して所得金額を過少に申告していたものである。このことは、国税通則法六八条一項に規定する課税標準又は税額の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を仮装したところに基づいて納税申告書を提出したことにあたるから、過少申告加算税に代えて重加算税の賦課決定をした本件処分は適法である。さらに更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法六五条四項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条一項の規定により、過少申告加算税の賦課決定をした本件処分は適法である。

2  認定利息の利率は年一〇パーセントあるいは六パーセントのいずれが妥当か。

(原告の主張)

仮に原告が、東商に対して預託した前記三二〇〇万円が、東商に対する貸付金に該当するとしても、被告が認定利息の利率を年一〇パーセントと認定している点については、法律上の根拠がなく、商人の行為につき約定がない場合に適用される商事法定利率の年六パーセントが妥当であるので、少なくとも商事法定利率年六パーセントで計算した利息額を超える部分は違法として取り消されるべきである。

(被告の主張)

右三二〇〇万円は、原告において資産として決算計上されているから、東商に贈与されたものとも認められず、他に右金員の支払を正当化する自由はないから、右金員は、東商に対する無利息の貸付金とみるのが相当であるところ、原告のような営利法人が金銭を無利息で他に貸し付けた場合、通常の利率による利息相当額の経済的利益を無償で借主に供与したものとして、貸主である法人において法所定の収益が発生することとなる。本件のような取決めのない貸付金利率を認定する場合の取扱としては、所得税基本通達三六-四九があり、特別の事情のない限り通常収受すべき利率を概ね一〇パーセントとしているのであるから、右貸付金三二〇〇万円に対して年利率一〇パーセントで日割計算した利息相当額を原告の雑収入とし、益金として計上した本件処分は適法である。

3  処分理由の差替えが許されるか否か。

(原告の主張)

本件更正処分通知は、その理由として、<1>営業権相当額八四〇〇万円が受贈益として計上すべき益金である、<2>三二〇〇万円に対する年一〇パーセントの割合による利息相当額二一三万九一七三円が雑収入として計上すべき益金である、と記載し、被告は本件訴訟においても一貫してその旨主張してきた。これに対し、原告は、<2>について、少なくとも右利率は年六パーセントが正当である旨主張し、その利率に基づいて計算すると、利息相当額は一二八万三四九五円となり、その減額分八五万五六七七円だけ本件更正処分の所得金額は過大となり、これに対する税額(納付すべき税額四〇六九万二三〇〇円を超える部分及び過少申告加算税額五〇三万一二〇〇円を超える部分)は取り消されるべきものとなる。ところが、被告は、従前の主張に反し、突如、<1>の受贈益の額を一億四〇〇〇万円と主張し、その増額分五六〇〇万円の範囲内に右減額分(八五万五六七七円)が収まっているので、本件更正処分は適法である旨新たに主張するに至り、右主張はいわゆる総額主義の主張である旨説明した。

ところで、原告は青色申告者であるが、税法は、青色申告書に対して更正処分をする場合には、更正通知書に理由を附記しなければならない旨規定し(法人税法一三〇条二項)、右規定に違反し、その記載を欠いた処分又はその記載が不備な処分は取り消されるべきことが判例上確立している。また、右規定の立法趣旨は、処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服申立に便宜を与える趣旨に出たものであることも判例上確立している。そうすると、争訟の場において、更正の理由とされた以外の理由をもって処分を維持されない手続的保障が与えられたものと解すべきであって、理由として掲げられた事項と異なる主張は制限されると解すべきである。仮に、理由として掲げられた事項と異なる理由によって処分が維持されることを許せば、実質的に、理由を欠く処分が許される結果となり、これでは、理由附記を青色申告者に対する更正処分の要件とした法の規定の趣旨に反する結果となる。ただ、例外的に、処分理由の基礎となる事実の同一性を害せず、処分時における処分手続の適正保障を保持できる場合は、その限度で異なった判断も可能であろうが、その同一性の限度については、更正通知書に附記すべき理由の程度は、更正にかかる勘定科目とその金額を示すほか、そのような更正をした根拠を帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を適示することによって具体的に明示することを要するのであるから、例えば単なる法的評価の問題ではなく、勘定科目を異にして処分時と異なった根拠をもって主張したり審理することは、基本的事実の同一性を害し、許されないことになる。そうすると、被告の新たな主張は、受贈益の勘定科目の金額を増額し、これと異なる勘定科目たる雑収入の金額の減を埋め合わせようとする主張であって、基礎となる事実の同一性を害することは明らかであり、許されない。

(被告の主張)

(一) 被告は、本件課税処分に際し、原告が第二はとタクシーから無償で譲り受けた営業権の価格を、認可車両一台当たり三〇〇万円を下らないものとし、認可車両台数二八台に乗じて八四〇〇万円と評価した。しかし、東商が第二はとタクシーの株式を購入した昭和五八年当時、東商においては、第二はとタクシーの株式の評価に際し、当時の大分市における相場をもとに営業権を認可車両一台当たり五〇〇万円と見積もり、認可車両台数二七台を乗じて営業権を一億三五〇〇万円と算定している。そして、その後の景気の動向等から判断して、第二はとタクシーから原告への営業権譲渡が行われた平成元年七月においても、営業権の価格は認可車両一台当たり五〇〇万円を下回ることはない。したがって、第二はとタクシーから原告への営業権譲渡が行われた当時の営業権の価格は、認可車両台数二八台で少なくとも一億四〇〇〇万円を下回ることはなく、右金額が原告の本件事業年度の益金となる。

(二) 右営業権の価額一億四〇〇〇万円をもとに、本件事業年度における原告の所得金額を算定すると、原告の所得金額は、本件更正処分における営業権の認定額八四〇〇万円との差額分の五六〇〇万円だけ本件更正処分において認定した所得金額を上回ることになり、認定利息の利率如何にかかわらず、本件更正処分時の客観的な税額は、本件更正処分の所得金額一億〇四一〇万三八七五円を大きく上回ることになるのであるから、本件更正処分は適法である。

(三) 原告は、自らが青色申告者であることを前提として、被告の前項の主張は、青色申告者に対する課税処分理由の差替えであるから許されない旨主張する。しかし、原告は、本件事業年度である平成元年四月四日から平成二年三月三一日までの事業年度には白色申告者であり、その翌期である平成二年四月四日から平成三年三月三一日までの事業年度から青色申告者となった。そして、判例は、白色申告者に対しては、総額主義に基づいて、処分理由の差替えを無制限に認めており、被告が、本訴において、処分理由として右(一)、(二)を主張することは許される。

また、仮に原告が青色申告者であったとしても、本件処分理由の差替えは許される。すなわち、判例は、総額主義を採用しているにもかかわらず、青色申告者に対する処分理由の差替えが一般的に許されると解すべきかどうかについて判断を留保しているが、これは、処分理由の差替えを無制限に認めると、青色申告に係る更正に理由附記の趣旨、目的を阻害することになるという配慮からである。青色申告に係る更正の理由附記の趣旨、目的は、処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制する(処分適正化機能)とともに、処分の理由を相手方に知らせて不服の申立てに便宜を与える(争点明確化機能)趣旨に出たものであるが、処分理由の差替えによって処分適正化機能が害されるという事態は一般的には想像し難いから、処分理由の差替えが制限を受けるのは、争点明確化機能との関係においてであり、争点明確化機能を阻害しない限り、青色申告者に対しても、総額主義に基づいて処分理由を差替えることは許されるものと解すべきである。本件の場合、原告に営業権の受贈益を認定した点、原告から東商への貸付金及び利息を認定した点について、被告の主張に何ら変更はなく、争点としては同一であるから、本件処分理由の差替えは、青色申告に理由附記を要求した趣旨、目的を阻害するものではなく、許される。

第三争点に対する判断

一  前記争いがない事実に、証拠(甲一、二の一、二、三ないし八、九の1ないし3、一〇の1ないし3、一一の1ないし3、一二の1ないし三、一三の1ないし3、一四の1ないし3、一五、一六、一七の1ないし八、一八、一九の1、2、二〇、二一の3、二二の1ないし7、二三、二四の1ないし6、二五、二七、三〇の1、2、三二ないし四一、乙二ないし三〇、三一の1ないし6、三二ないし四〇、四一の1ないし6、四二、四八ないし五二、五三の1ないし3、五四、五五の1、2、五六、六〇)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、甲第三二ないし第四一号証及び乙第三一号証の1のうち、右認定に反する部分はいずれも採用できない。

1  第二はとタクシーは、一般乗用旅客自動車運送事業及び同事業に附帯する一切の業務を目的とする、いわゆるタクシー業を営む株式会社であり、有松により昭和四〇年一〇月八日に設立された。第二はとタクシーの商号は、設立当初、きんぐタクシー株式会社であったが、昭和五八年七月一日から第二はとタクシー株式会社、平成元年一月一〇日から平成はとタクシー株式会社、同年二月八日から再び第二はとタクシー株式会社に順次変更され、現在に至っている(以下、当時の商号に関係なく、「第二はとタクシー」という。)。

2  東商は、大分県下のタクシー会社六社を構成会社とし別府市に拠点を置く「はとタクシーグループ」に属する株式会社である。昭和五六年七月四日の設立当初、東商の株式は、右グループのオーナーである海野及びその一族が五〇パーセント、右グループの顧問弁護士である内田達夫及びその次男の内田正紀がその余の五〇パーセントを所有しており、代表取締役には内田正紀が就任していたが、内田親子は、東商の経営を梅野らに一任していた。東商は、医薬品、食品、雑貨等の輸出入及び販売並びに不動産販売等を目的としていた(なお、昭和五八年四月二〇日、不動産、動産の賃貸等をその目的に追加し、翌二一日に登記をしている。)が、昭和五八年三月ころまでは実質的な経済活動をほとんど行っておらず、平成元年八月まで法人税の確定申告もしていなかった。

3  昭和五八年五月まで第二はとタクシーの代表取締役であった有松は、第二はとタクシーを売却しようと考え、昭和五八年三月ころ、友人の河野に対し、売却先は大分県以外の業者に限るとの条件を付けた上で、売却方の仲介を依頼するとともに、できれば河野自身に第二はとタクシーを買い取ってもらいたい旨申し入れた。これに対し、河野は、タクシー会社の経営に興味を持っていたことから、自ら第二はとタクシーを買い受けたいと考え、タクシー一台当たりの価格を一〇〇万円ないし一五〇万円、右会社が所有するタクシーの台数を三〇台程度として、買収価格を五、六千万円程度と判断し、有松に対し右金額を伝えたが、有松の希望売却価格が一億円を超えていたため、資金調達の目処が立たず、自ら第二はとタクシーを買い受けることを断念した。ところで、河野は、かねて、知り合いの梅野から、タクシー会社の買収の話があれば仲介して欲しい旨頼まれており、これまでにも梅野に対し、大分はとタクシー株式会社の買収を仲介したことがあった。そこで、河野は、今回も第二はとタクシーの買収の仲介をしようと考え、梅野に対し、第二はとタクシーを買収する話をしたところ、梅野は、東商において買い受けることを前提に、右買収に積極的な姿勢を示し、河野に対し、仲介手数料として二〇〇万円を支払うことを約束した上で、同人に有松との交渉を一任した。もっとも、河野は、直接東商が買い受けることになると、大分県以外の業者に限るとの前記条件に反し、有松の承諾が得られないであろうと考え、表面上はあくまで河野自身が買い受ける形で交渉を続けることにした。その結果、河野は、有松との間で、第二はとタクシーを1億三九五〇万〇一〇〇円で買い受けること、買収後も有松を右会社の役員として二年間雇用し、その間、給料として手取月額四〇万円を保証することで合意した。昭和五八年三月一〇日ころ、河野は、東商から右買収の手付金として現金五〇〇万円を預かった上、これを有松に支払った。

4  同年五月二日、河野は、東商から右買収の残代金として小切手と現金で合計一億三四五〇万〇一〇〇円を預かった上、これを有松に支払った(もっとも、第二はとタクシーの決算書には、右譲渡代金の計上がなく、その税金の申告もされなかった。)。これと引換えに、有松は、河野に対し、第二はとタクシーの会社印、同会社所有名義の不動産権利証、株式譲渡承認請求書、株式譲渡承認書、株券等を交付し、河野は、即日、これらを東商に交付した。この結果、第二はとタクシーの全株式四九五〇株は、有松他五名の株主から、河野を介して、東商に譲渡され、東商は、第二はとタクシーの株式を一〇〇パーセント保有する株主となった。また、河野は、前記3のとおり、あくまで有松に対して自ら直接買い受けた形式を貫く必要があったため、右同日、名目上、第二はとタクシーの代表取締役に就任した(登記は同月四日にされた。)が、同年六月一七日、梅野から仲介手数料として二〇〇万円の支払を受け、経営に参加することもないまま、同年七月五日、代表取締役を辞任した。なお、右買収に際し、東商は、道路運送法三九条一甲の「一般自動車運送事業の譲渡及び譲受」についての運輸大臣の認可を受けていない。

5  東商は、第二はとタクシーを買収する資金として、一億五〇〇〇万円を株式会社大分銀行から借り入れたが、右買収に際して作成されたものとして右会社から提出された営業権リース契約書(甲七)には、右借入金のうち、前記買収の代金に相当する一億三九五〇万〇一〇〇円につき、東商が第二はとタクシーに貸し付けたことを確認するとともに、双方間において、別途、営業用の車両賃貸借契約を結び、その賃貸借金をもって、第二はとタクシーが東商に対し、右金員の返済を行う旨記載されている。そして、その後、東商の株式会社大分銀行に対する右借入金の利息を含めた月々の返済額に基づき、第二はとタクシーが、東商に対し、右賃料名下に、月々、継続的に支払う金額の改定が行われ、実際に、その支払が行われている。

6  ところで、原告は、第二はとタクシーの東商に対する営業用自動車の譲渡の事実を裏付ける証拠として、昭和五八年四月三〇日から同年五月二日までの間に、第二はとタクシーと東商との間で作成されたとする同年四月一日付け自動車売買契約書(甲五)及び同日付け車両賃貸借契約書(甲六)を提出している。しかし、第二はとタクシーが、昭和五九年九月ころ、被告所属の調査担当係官に提出した自動車売買契約書(乙三一の4。本文の内容は前記甲五と全く同じもの。)に添付された自動車内訳明細書には、昭和五八年五月二日時点では存在しない同年七月二〇日から同年九月二八日までの間に登録された自動車三台が記載されている(ちなみに、第二はとタクシーが同年七月九日付けで作成した「車両賃貸借契約書」(甲四)に添付された自動車内訳明細書にも同様の記載がある。)から、右各契約書は、いずれも、同年九月二八日以降の時期に、梅野らの関係者によって日付を遡らせて作成されたものと認められる(原告は、乙三一の4につき、本文がゴシック体であるのに対し、これに添付された自動車内訳明細書は明朝体であるから、同一時期の一体文書であるというのは不当であって、字体の一致する甲五が同契約書の完全な文書であり、右明細書は甲四に添付されるべきであった旨主張するが、原告が完全証拠であると主張する甲六も本文が明朝体、添付された明細書がゴシック体であるから、右主張は失当である。)。そして、右売買契約の目的とされた営業用車両について、第二はとタクシーから東商への所有者等登録事項の変更はされていない。また、東商は、賃貸したとする車両の管理に係る記録等を有しておらず、右車両賃貸借契約書六条で、「賃借物件の使用中の修繕又は造作、改造をなす場合は甲(東商)の承諾を得る事」と規定されているにもかかわらず、車両の修繕等に関する記録を有していない。

7  第二はとタクシーは、平成元年三月一四日開催の臨時株主総会において、「当社が有している一般乗用旅客自動車運送事業の営業権及びこれに関する資産、負債を原告に譲渡する。」旨の議案を満場一致の決議をもって可決した上、原告との間で、原告に対し、大分市を事業区域とする一般乗用旅客自動車運送事業の権利、義務及び事業用自動車、什器備品、機械器具一式等を一〇〇〇万円で譲渡する旨の同日付け一般乗用旅客自動車運送事業の譲渡譲受契約を締結した。そして、第二はとタクシー及び原告は、同年四月二〇日付けで、九州運輸局長に対し、右譲渡譲受についての認可申請書を提出し、同局長は、同年七月四日付けで、右申請(認可申請車両台数二八台)を認可した。なお、右申請書に添付された「譲渡及び譲受価格の明細書」には、右譲渡譲受代金一〇〇〇万円の内訳として、事業用自動車、計器機器等の営業用財産の価格の記載はあるが、営業権についての記載はない。

二  第二はとタクシーから東商に対する営業権の譲渡の有無について(争点1)

1  道路運送法四条一甲は、「一般自動車運送事業を経営しようとする者は、運輸大臣の免許を受けなければならない」と規定し、同法三九条一項は、「一般自動車運送事業の譲渡及び譲受は、運輸大臣の認可を受けなければ、その効力を生じない」として運輸大臣の認可が営業権の譲渡及び譲受の私法上の効力発生要件である旨規定し、さらに、同条三項は六条を準用し、右認可に当たって、運輸大臣は同条一項各号に掲げる基準に適合するかどうか審査しなければならないとされている。そして、同法四条一項の規定に違反して一般旅客自動車運送事業を経営した者には刑事罰(一年以下の懲役もしくは二〇〇万円以下の罰金又はこれらの併科)が科される(同法一二八条一号)から、認可を受けないでタクシー事業を譲り受けることは、右刑事罰を受ける危険を犯すことになる。この点につき、原告は、同法が認可の対象としているのは「(タクシー)事業の譲渡」であって「(タクシー)営業権の譲渡」ではなく、営業権の権利者が自己以外の他人(又は法人)をして右営業をしうる権利の実行者とし、その営業による生活利益を排他的直接的に支配しうる地位をもって営業権ということも全く問題はないから、本件のように、東商が、事業の認可を受けた第二はとタクシーを主体として当該営業(事業)をなさしめることは、認可の対象にも罰則の対象にもならない旨主張する。しかし、同法にいう「事業の譲渡」とは、旅客自動車運送事業の場合、他人の需要に応じ自動車を使用して旅客を運送するため組織化され、有機的一体として機能する財産を譲渡することを意味するものと解されるところ、原告の主張する意味における営業権の譲渡も右「事業の譲渡」に当たることは明らかである上、第二はとタクシーは東商に対し、タクシー営業権と同時に事業用自動車に対する第二はとタクシーの権利をすべて譲渡したと主張しているのであるから、タクシー営業権の譲渡のみを取り上げて、これが「事業の譲渡」に当たるか否かを論ずる意味はないというべきである。したがって、本件が同法の認可の対象にも罰則の対象にもならないとする原告の右主張は理由がない。

2  さらに、前記一の認定事実によれば、東商は、道路運送法上、タクシー事業の譲受の効果が生じるために必要とされる運輸大臣の認可を受けていないばかりか、東商が第二はとタクシーから営業用車両を譲り受けたことを前提に主張する車両賃貸借契約についても、東商は、その車両の管理や修理等に関する記録等を一切有していないのであり、他方、第二はとタクシーも、商業帳簿に右営業権及び車両の譲渡代金を計上せず、その税金の申告もしていなかったほか、第二はとタクシーから東商へ売却したとされる営業用車両について、東商への所有者等登録事項の変更をしておらず、しかも、後日、営業権及び事業用自動車等の所有権が第二はとタクシーに属することを前提として、原告に対して右営業権等を譲渡しているのであるから、第二はとタクシーから東商への営業権の譲渡及び営業用自動車の譲渡は、いずれも仮装されたものであるといわなければならない。ところで、原告は、東商が第二はとタクシーの株式を額面総額の四九五万円で取得し、また、第二はとタクシーから営業権及び車両を一億三四四五万〇一〇〇円で取得したとし、これは、個別財産の譲渡と株式所有者からの株式取得とを併行させるいわゆる併行方式を採用したものである旨主張するが、株式を時価よりも著しく低額である額面金額で取得したとする点及び右株式の取得により東商の一〇〇パーセント子会社となった第二はとタクシーから、さらに東商が営業権等の資産を購入したとする点で通常の取引形態と比較して極めて不自然である上、前記のとおり、営業権の譲渡に必要な認可手続がされていないことや買収に伴う書類の作成経過などをも併せ考慮すれば、右主張は到底採用できない。なお、原告は、仮に営業権の譲渡が私法上無効であるとしても、課税上は、現実にその経済的成果が収受されていれば、その実質的担税力に応じて課税されるのであり、無効な行為により生じた経済的成果が、その行為の無効であることに起因して失われた場合に限って更正の請求が認められる旨主張するが、本件においては、そもそも右譲渡行為自体が仮装である以上、それに伴う経済的成果が生ずることもないから、右主張は前提を欠くものであって、失当である。

3  以上によれば、営業権は、東商ではなく、第二はとタクシーが所有しており、原告は、第二はとタクシーから営業権の無償譲渡を受けたと認められるので、資産の無償譲受に該当する受贈益として益金に算入した本件課税処分に違法はない。また、原告の東商に対する一六七〇万九六六七円の営業権使用料の支払は、虚偽の営業権賃貸借契約等により仮装計上されたものであり、その実質は原告の東商に対する贈与であるから、これを寄付金として、損金算入限度超過額を所得金額に加算した同処分に違法はなく、原告が、東商に対し、営業権賃貸借契約に対する保証金として預託している金員についても、その支払を正当化する事由はないから、右金員は、東商に対する無利息の貸付金と認めるのが相当であり、その利息相当額を雑収入とし、これを益金として計上した同処分に違法はない。さらに、原告は、第二はとタクシーから営業権を取得していながら、東商が所有するとして、虚偽の営業権賃貸借契約書を作成して営業権使用料の支払を仮装し、これを損金に算入し、所得金額を過少に申告していたものであるから、これを国税通則法六八条一項に規定する「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していた」ことに当たるとして、過少申告加算税に代えて重加算税の賦課決定をした本件課税処分に違法はない。また、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、更正前の税額の基礎とされていなかったことについて、正当な理由があるとは認められないから、国税通則法六五条一項により、過少申告加算税の賦課決定をした本件処分に違法はない。

三  処分理由の差替えの許否及び認定利息の利率について(争点2、3)

証拠(乙六二、六三)によれば、原告は、本件事業年度においては、白色申告者であったと認められるのであるから、被告の右処分理由の差替えについて違法の点はない。

そして、証拠(乙六、五八)によれば、昭和五八年当時、東商の取締役であった永井正は、別件の訴訟(当裁判所平成三年(行ウ)第二号法人税更正処分当取消請求事件)において、東商が第二はとタクシーを買収したことを前提にして、営業権をタクシー一台当たり五〇〇万円と見積もった旨証言していることからすると、平成元年当時の営業権の価格をタクシー一台当たり五〇〇万円の二八台分である一億四〇〇〇万円と解するのが相当である。そうすると、右受贈益のみでも本件更正処分の前提となる被告認定の所得金額を大幅に上回っているのに対し、右認定利息の利率については、被告主張の年率と原告主張の年率との差が四パーセントであって、利息相当額の差は八五万円余りであることから、右利率の相異が本件更正処分に影響を与えるものであるとは解されない。

四  よって、本件課税処分が違法であるとしてその取消を求める原告の本訴請求は、いずれも理由がない。

(裁判長裁判官 安原清藏 裁判官 高橋亮介 裁判官 秋信治也)

(別紙)

<省略>

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